鈴木のブログ

読書メモとして。

饗庭伸「都市をたたむ―人口減少時代をデザインする都市計画―」

 饗庭伸「都市をたたむ―人口減少時代をデザインする都市計画―」を読んだ。

 

 先日読んだ「新築がお好きですか?」で参考文献として挙げられていた一冊。

 

 本書は都市を「『豊かな生活をしたい』という目的に対する『手段』の集合体」と位置づけ、我々の目的のために、都市を主体的に使いながら「縮小」していく、そのために都市計画をどのように組み立てるか、を論じている。

 

 本書によれば、拡大期の都市計画は、「中心×ゾーニングモデル」に基づくものであった。

 このモデルは、用途純化、中心の意識といった理念(?)の下、「土地収用」「都市施設」「土地利用規制」「都市開発事業」の4つの手法により都市をつくりあげていくものである。「都市施設」「土地利用規制」「都市開発事業」の3つの手法の体系は1919年の都市計画法の制定にあわせて確立し、その後の都市空間をつくりあげてきた。

 ただ、農地改革により多くの土地所有者が生まれたこと、市街化区域の開発実行力が弱かったことなどの理由から、「スプロール化」と呼ばれる開発が行われていくことになる。

 

 こうした拡大期の都市の力学・都市計画に対し、都市縮小期に働く力学が「スポンジ化」である。不動産の脱市場化を前提に、土地利用は超小規模化、多方向化、ランダム化、不可視化されていく。

 そのような都市縮小期の空間モデルとして本書が提示するのが、「全体×レイヤーモデル」である。都市を「異なる論理で変化する空間の重なり」ととらえ、レイヤーごとに判断されるポテンシャルの合算の結果が「スポンジ化」となる。

 

 とここまで読んでみて、本書が都市の拡大期と縮小期に働く力学を対比し、現状を「スポンジ化」と定義したことはなかなか説得力があると感じた。

 人口が減少し、都市が縮小するといっても、都市はただ小さくなるだけではない。相続などで手を付けるコストが高くなれば市街化区域でも空き家は発生するだろうし、一方で例えば道路が開通してアクセスが良くなれば市街化調整区域の土地でも需要が高まることもあるだろう(圏央道の開通で千葉県内に物流施設の立地が増えている、という新聞記事を先日読んだ気がする)。 ただ拡大期の逆をたどるわけではない、縮小期の力学を正確に理解し、そのための対策を打つ必要がある。

 

 一方で、本書が提示する「スポンジ化」への対応策については、やや物足りなさを感じる。「全体×レイヤーモデル」の都市計画として、「小さな規模で土地利用を混在」「小さくバラバラの土地の総和によってつくられる都市施設」といったイメージは述べられているものの、そのあとは個別具体的な取組事例が述べられているくらいで、新しい都市計画が「制度」としてどうあるべきなのか、その具体論までは踏み込めていないのではないか。

 最終章では「たたまれた空間における都市計画は、(制度や空間を介した)共同意識を根拠に成立するものではないだろうか」といった記述もある。「共同意識」なるものを持ち出すことで、少しでも「制度」を良くしようという努力を放棄しているような気がするのは気のせいだろうか。

 

 本書の現状認識を踏まえ、もう少し詳しく都市計画法制を学んでみる必要がありそうだ。また、昨今よく言われる「コンパクトシティ」(本書でも長期的な対応策として触れられていた)の考え方について、その出発点はどこなのか(誰が言い出したのか)、本書を読んでいてふと疑問に思った。

 

砂原庸介「新築がお好きですか?―日本における住宅と政治」

 砂原庸介著「新築がお好きですか?―日本における住宅と政治」を読んだ。

 

 「『持家社会』は、日本においてなぜ形成されてきたのか。」と冒頭にあるとおり、「制度」面から日本の住宅事情(?)を明らかにするもの。

 まちづくりを考えるためにも日本の住宅政策について勉強してみたいと思っていたところ、ちょうどよかったので購入。ミネルヴァ書房のPR誌での連載を本にしているらしく、簡潔にまとまってあり読みやすいものの、情報量はかなり多い。

 

 「住宅をめぐる選択」と題した第1章では、第二次大戦中、インフレ抑制のために家賃統制を実施し、その歪みに対応するために借り手の保護を強化した結果、大規模・高品質の賃貸住宅の取引費用が高まり、日本の賃貸住宅は小規模なものが圧倒的になったと述べられている。

 そうした小規模な賃貸住宅は、小規模な事業者(個人)により供給され、若年の都市流入者の需要を満たすこととなった。家族向けの賃貸住宅は供給されなかったため、住宅購入を望む中間層には、政府の金融支援がなされることとなる。

 続く第2章では、「住宅への公的介入」として、公営住宅の対象者が低所得者に限定されていく一方、住宅公団による宅地開発、住宅金融公庫による利子補給により、新築住宅が供給されていく過程が記述されている。

 その他、日本の区分所有法制の課題や大量の空き家の発生など、住宅や土地利用に係る幅広い課題についてわかりやすく記述されており、非常に勉強になった。

 

 一読してみて、一口に「住宅政策」といっても、それに関わる法制度、いわば「変数」が様々あり、ある課題への対策を考えるにしても、どの制度をどのように動かすべきか、全体をコーディネートすることが非常に困難である、ということを感じた。

 例えば住宅政策についてみてみると、直接的に関わってくる民法借地借家法公営住宅法等はもちろんのこと、地方税法(固定資産税)等の税制や都市計画法等の土地利用規制、あるいは不動産登記法などなど、目的や所管が異なる様々な法制度を理解し、あるべき制度を検討することは並大抵の作業ではないだろう、と思う。

 

 ちなみにいわゆる「所有者不明土地」については、法務省国交省が新たな法制上の措置を検討しているようなので気に留めておきたいと思う。

登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会 | 一般社団法人 金融財政事情研究会

 

 また、本書では1996年の公営住宅法大改正や、東日本大震災の「みなし仮設」(本書では「政策的革新」と述べられていた)について触れられていたが、そうした(「制度」の変革には必ずしも結びついていないかもしれないものの)政策的転換がどのようになされたのか、それぞれの政策プロセスを深堀りしてみるのもおもしろいかもしれない。

 

 ひとまずは参考文献に掲げられていた「都市をたたむ」を次は読んでみようと思う。

 ミネルヴァ書房だったので値段が高いのではないかと心配したが、叢書だからか若干安く、内容にも満足。

 

 

9月12日追記

  先日、国交省が中古住宅に「履歴書」を付けることを検討するとの報道があった。

  レインズにIDを付与するとのことで、2019年度から検討会を立ち上げて実証実験を行うとのこと。取引費用を下げて、より良質な中古住宅が供給されやすくするための取組と言えるだろう。

https://r.nikkei.com/article/DGKKZO35111810X00C18A9MM8000