鈴木のブログ

読書メモとして。

デービッド・アトキンソン「新・観光立国論」

 

 外国人観光客数の増加が著しい昨今、国から自治体まで、どこもかしこも「観光、観光」と言っているような気がするが、その観光政策について、日本がとるべき方策を述べた本。著者は元ゴールドマンサックスのアナリストで、データに基づく指摘は簡潔で説得力がある。

 

 著者によると、「観光立国」の4条件は「気候」「自然」「文化」「食事」。日本はその全てを満たしている稀有な国である。ではなぜそのような好条件がそろう日本で、外国人観光客はたったの1,300万人しか訪れていないのか。

 それは、単純に観光政策に「力を入れてこなかった」からである。その上、海外にアピールすべきポイントを勘違いしている。

  例えば、日本のアピールポイントとして、「交通アクセスがいい」「治安がよい」「マナーがよい」などと言われることがある。しかし、考えてみれば、自分たちが外国に旅行するときに、そうしたことを観光の第一目的にするだろうか。

 「観光立国」であるためにいは、4条件全てを「フルメニュー」でそろえることが重要である、と著者は指摘する。これら4つをベースに置きつつ、それ以外を+αで載せていくことこそが必要である。

 

 また、日本の「おもてなし」がアピールされることもしばしばある。しかし、外国人の側から日本の「おもてなし」が評価されていることはほとんどない。むしろ、マニュアルにないリクエストがあると対応できないのが日本の法人のサービスだと言われているらしい。

 このような日本特有の「おもてなし」の根源は、「ゴールデンウィーク」というシステムにあるのではないか、と著者は推測している。ゴールデンウィークは、何もしなくても多くの日本人を国内観光に強引に送り出すシステムであり、その結果として、観光地には、短期間に大量の人を効率的にさばくというシステムが確立していったのではないか。そして、この「需要が一時期に集中する」というシステムのせいで、日本の観光業の設備投資は難しくなる。一時期の需要に対応させるために投資を行うと、それ以外の期間は過剰投資になるため、投資効率が悪化する、ということである。

 重要なことは、「多くの人をさばく観光」から「お金を落とす客にきてもらう観光」に発想を転換することである。

 

 そしてそのためには、観光マーケティングをしっかり行う必要がある。

 現状、日本を訪れる外国人観光客は、その約9割がアジアからの観光客である。アジアからの観光客に対しては、食・ショッピングを売りにして、しっかりアピールができている、と言える。

 一方、ヨーロッパやロシア、オーストラリアという先進国から日本に来る観光客は非常に少ない。そして、これらの国の人々は、一人当たり観光支出額が大きい「上客」である。加えて、これらの遠い国からの観光客は、長く滞在する傾向にある。観光客の支出の約半分が滞在のための費用(宿泊・食事)であるから、観光収入を増やすためには、これらの長期滞在する観光客をいかに呼び込むか、が重要である。

 よって、これらの国の人々を対象として、細かくセグメンテーションをした上で、それぞれどのように対応していくかを考える必要があるが、そこで重要になってくるのは「多様性」である。外国人を呼ぶためには、「あれもこれも」やらなければいけない。高級ホテルの用意や、富裕層向けの優遇措置などを設けることで、よりよいサービスを提供し、お金を落としてもらうことが必要である。

 

 

 本書では日本の観光施策について様々な指摘がなされるが、いずれも簡潔でわかりやすく、手厳しい。マーケティングをして、買い手のニーズをとらえて、求められているものをできるだけ効率的に売る、というのは、観光に限らずビジネスの基本なのだろう。

 「うちの地域には〇〇があるから、観光資源として使えるのではないか」というようなことは全国各地で言われているのではないかと思う。しかし、何かを売ろうとしたら、買い手の立場に立たなければものは売れないのだ、という当たり前の事実を肝に銘じておく必要がある。