鈴木のブログ

読書メモとして。

前田健太郎「市民を雇わない国家―日本が公務員の少ない国へと至った道」

 「日本の公務員数はなぜ諸外国と比べて少ないのか」を分析した本。

 

 そもそも日本の公務員数は諸外国と比べて少ないのか。

 人事院によると、2013年度の日本の公務員数は339.3万人であり、人口の3%を占めめているに過ぎない。「公務員」の定義を最大限に広げたとしても、その数値は3割程度しか大きくならない(公務員数の国際比較に関する調査)。

 (例えば日経新聞の記事では「893万人」と記載されていたようだが、これは公共部門で少額の給与を得て源泉徴収票を受け取った市民も含む数値になっているとのこと。それを「公務員数」というのはさすがにミスリーディングが過ぎるのではないか。)

 様々な視点から公務員数を分析し、本書は「日本の公務員数が少ないという傾向は分野を問わず該当する」とまとめている。その上で、「日本の公共サービスの多くは、政府による直接供給を通じてではない形で、公務員とそれ以外の主体の協働を通じて市民の手に届いている」と述べている。先日読んだ町内会の議論にもつながるような気がする。

 

 では、なぜ日本は公務員数が少ない国になったのか。

 本書は「現在の公務員数を規定するのは、経済発展の早い段階における公共部門の拡大圧力の強さと、その拡大が停止したタイミングである」と指摘し、日本を「経済発展の早い段階で公務員数の増加を止めた国」として特徴づけている。事実、戦後日本の公務員数(人口比)は、中央・地方を問わずほとんど増加していない。

 

 まず、日本における公務員の人件費の特徴を考える上で決定的に重要なのは、公務員の労働基本権の制限と、その代償としての人事院勧告の存在である。人事院勧告に従えば、民間の賃金上昇により公務員人件費にも増加圧力がかかることとなる。また、人事院勧告に従って公務員人件費が決まることにより、日本政府は所得政策という、マクロ経済政策の手段を欠くことになる。つまり、日本における公務員の人件費の特徴は、その財政的な統制の難しさにある、といえる。

 それゆえに、1960年代の行政改革は、給与面からのコントロールの効かない公務員の数を低く抑えることによって、財政政策の柔軟性を確保することを目指すという性格を有することとなった。

 さらに、1960年代の行政改革は、地方自治体にも波及していく。1965年度以降、自治省は通達により、類似団体別財政指数表に基づいて、各自治体に人員整理と人件費の圧縮を求めていく。また、地方財政計画に地方公務員の定員削減が織り込まれることを通じて、地方公務員の増加に対する財政的な制約が加えられることとなる。

 一方で、1960年代の行革の結果、公益法人への業務の委託が幅広く行われることとなる。行革によって公務員数の抑制が開始されたことの副作用として、公益法人のような政府外の組織が増え始めたのである。

 

 

 本書の論旨は明快であり、また多様なデータを用いて根拠が述べられていて、非常に説得力のある主張だと感じる。

 比較的最近になって、PPP/PFIなど行政への民間活力の導入が強く進められているが、日本の戦後公務員制度はその発足当初から、民間の主体と協働せざるを得ない状況にあった、ということなのだろう。

 最近ではマスメディアなどでも「公務員削減すべし」といった議論はあまり聞かないような気がするが、「多様化」する行政ニーズに対し、大幅な公務員数の増加が見込めないということであれば、今まで以上に外部のリソースを活用して行政サービスを提供していくことが求められるのかもしれない。