鈴木のブログ

読書メモとして。

鈴木智彦「サカナとヤクザ」

 「サカナとヤクザ」という直球のタイトルに魅かれて購入。

 アワビやナマコ、ウナギといった水産物をめぐる密漁、密輸等々、「裏」の世界のルポは緊張感があって非常におもしろかった。

 

 そもそも日本の漁業は、漁獲規制が緩すぎて資源管理ができていないため、生産性が低い状況になっている(勝川「漁業という日本の課題」)。それに加えて、流通もトレーサビリティがしっかりしておらず密漁品が多数流入しているとなれば、水産業を「健全な」状態にするにはいったいどこから手を付ければいいのだろうか。消費者は商品を手にすることができ、流通業者は安く仕入れた商品を高く売ることができ、漁業者は漁獲高が上がらないことを密漁のせいにできる(実際密漁の要因はかなりあるのだろうが)。結果として日本の漁業資源は将来どうなってしまうのか。

 

 本書でも水産業暴力団とのかかわりがテーマになってはいるが、暴力団とつながりができるのは、そもそも不公正なルールの下での競争が存在するからなのかもしれない。「それぞれ仕事を持っている個人事業主の互助会、それがヤクザであり暴力団の姿である。」とは本書の言葉であるが、ヤクザどうこうを問題にするよりも、まずは公正なルールを作ることが必要なのだろう。

 

 ちなみに、本書によれば、日常的に密漁事案を手掛けるのは、海上保安庁直轄の、それぞれの地域に設置された海上保安部がメインとなる。

 国の省庁で言えば漁業政策自体は水産庁農水省)の所管であるが、海上保安庁国交省の外局である。本書では特段指摘はなかったと思うが、組織が違えば縦割りの弊害が発生することはよくあることであり、密漁対策にもそのような側面があるのかもしれない。

 

 また、タイミングを合わせたのかわからないが、今話題の築地市場に筆者がアルバイトとして潜入した際のルポもありなかなかおもしろい。

 例えば、「喫煙所はあるが誰も守っておらず、場内は実質、フリー・スモーキング」「ゴミはあたりかまわずその辺に放り投げる」など、築地で働く人たちのそもそもの衛生観念が低いレベルにあると思わせる記述がいくつかある。ワイドショーなどを見ていると「豊洲はこんなに使いづらい!」といったような報道が多くなされているが、築地がそんなにすばらしい市場だったのであれば、なぜ大量のネズミの住処になっているのか、よく考えてみる必要があるだろう。