鈴木のブログ

読書メモとして。

植田和男・内藤滋編著「公共施設等運営権」

 

 最近いくつか実例がでてきた「公共施設等運営権(コンセッション)」について、その制度概要を概説した書籍。

 

 「公共施設等運営権」とは、いわゆるPFIの一種であり、公共施設等の運営をノウハウを持つ専門会社・専門家に任せることにより、その人材や経験、企画力、ネットワーク等を活用し、収益の増加・費用の縮減を図るものである。

 民間ノウハウを活用した公共施設等の運営といえば、従来から地方自治法上の制度として「指定管理者制度」が存在する。公共施設等運営権と指定管理者制度の大きな違いは、公共施設等の利用料金について、指定管理者制度が事前承認制を採用しているのに対し、公共施設等運営権では届出制を採用している点である(実施方針において上限・幅を規定)。これにより、利用料金を機動的に上げ下げできるようになっている。

 その他、詳細な条件についてはPFI法やガイドラインにおいて規定されているが、「運営」が対象であるため従来のPFIの中心的業務の一つであった施設の建設や製造が対象ではないこと、賃借権は運営権に含まれないこと(テナントに公共施設等を賃借するためには、運営権者がテナントに転貸する必要あり)、などとされている。

 ※ただし、本書では「不動産賃貸借契約を締結して賃料を得ることは、運営権の典型的な例である」としてガイドラインの規定に疑問を呈している。

 

 このように「公共施設等運営権」には様々な要件があるが、本書を読んでみると、そもそものPFIと同じように、新たな公民連携手法である本制度についても、公共と民間のリスク分担をしっかり検討しておく必要がある、ということがよくわかる。

 大きなリスクとしては「施設・設備に係る瑕疵・老朽化リスク」と「収入リスク(需要リスク)」の二つがあり、特に需要リスクについては、「これまでのPFI事業が中途で破綻した例は、いずれも需要リスクについての適切な予測、対応を怠ったと評価できるものである」と記述されている。

 公共施設等の運営において生じるリスクを如何に見込み、民間が参画できるように制度設計できるか、がこの制度の成否を左右するのだろう。

 (なお、PFIにおけるリスク分担については、「PFIの法務と実務」に詳しい。)

 

 その他、本書ではPFIの先進事例についてもいくつか触れられており、制度の概要やポイントがわかりやすくまとめられていて非常に参考になるところである。

 

 ちなみに、PFI法については、公共施設等運営権の導入を促進する観点から、平成30年度に改正がなされている。

PFI法の改正(平成30年) : 民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室) - 内閣府

 主な改正点は「公共施設等の管理者等及び民間事業者に対する国の支援機能の強化等」「公共施設等運営権者が公の施設の指定管理者を兼ねる場合における地方自治法の特例」「水道事業等に係る旧資金運用部資金等の繰上償還に係る補償金の免除」の三点となっている。

 特に二点目については、本書においても「運営権者が使用許可の権限を行使する必要がある場合には、指定管理者の指定を受ける必要がある」とされており、そのような場合の事務手続きを簡略化できることとなる。

 ※なお、本書では、運営権者が使用許可の権限を行使する必要があるのは、個別の公物管理法で使用許可が必要とされている場合に限られ、基本的には賃貸借契約で対応可能ではないか、とも記述している。

 

 また、下水道の公共施設等運営権導入に積極的に取り組んでいる浜松市では、市民向けの丁寧なQAを公表している。こちらも制度を理解する上で役立ちそう。

よくある質問/浜松市